大阪万博に向けて 夢洲への鉄道交通

 2018年11月24日の午前1時頃、パリにて開かれた博覧会国際事務局(BIE)総会にて2025年の万国博覧会の開催地が大阪に決まった。松井大阪知事や吉村大阪市長を始めとする大阪行政と世耕経済産業大臣を始めとする国、そして、大阪に身を据える民間企業が一致団結し、悲願ともいえる万博誘致を勝ち取った形だ。


 万博の開催地として予定されているのが大阪市此花区にある人工島夢洲である。夢洲は、舞洲(こちらも人工島)の南にあり、咲洲(こちらも人工島)の北西に位置している。「舞洲スポーツアイランド」として整備がされている舞洲、WTC(大阪府咲洲庁舎)やインテックス大阪が建つ咲洲と比べ、夢洲は未だほとんど手付かずの状態で整備されておらず、道路こそは通っているものの、広大な空き地が広がっているのが現状だ。


 無論そのような夢洲への交通手段は非常に限られている。道路では舞洲とは夢舞大橋、咲洲とは夢咲トンネルで繋がってはいるものの、逆に言えばそれしかなく、公共交通機関は今のところバスしかない。夢洲から最も近い駅は咲洲にある大阪メトロ中央線のコスモスクエア駅で、夢咲トンネルを抜けなければならず、とても最寄り駅と言える位置ではない。万博開催においては、今以上の夢洲への交通網の整備、とりわけ、夢洲への鉄道路線の進出は必要不可欠といえるだろう。


 夢洲への鉄道路線進出を考える上で、最も現実的かつ早期に実現出来そうなのが、前述の大阪メトロ中央線の延伸だ。現在はコスモスクエアが終点となっているが、そのまま夢咲トンネルを抜け、夢洲へと路線を伸ばすことは位置的に難しい話ではない。距離で言うと約3kmほどの距離である。実は、夢咲トンネルは2008年オリンピック誘致時(この際は開催地として北京が選ばれ、誘致に失敗)に、鉄道併用のトンネルとして建てられており、現在は放置されているその空間を活用すれば、改めて海底トンネルを掘る必要は無い。大阪府と大阪市はこの中央線夢洲延伸にかかる整備費として約540億円と試算している。


 一方で西九条からUSJのあるユニバーサルシティを抜け、桜島へと至るJRの桜島線(ゆめさき線)にも夢洲延伸計画がある。JR西日本は2018年4月27日に発表した中期経営計画2020に桜島線を夢洲方面延伸の検討を盛り込んだ。検討されているのは桜島から舞洲を通り、夢洲へと至る約6kmのルートであるが、こちらは2本の海底トンネルを新たに掘る必要があり、JR西日本は整備費として1700億円を試算している。もし完成すれば、大阪駅から夢洲へ乗り換えなしでアクセスすることが出来ることになり、夢洲への交通事情が飛躍的に改善される。が、JR西日本は万博誘致よりも、より長期的に需要が見込める統合型リゾート(IR)誘致に注目しており、来島達夫社長も11月14日の定例会見でそのような旨を言及している。夢洲にIRが誘致されれば、本格的に延伸に向けて動き始めると考えるべきだろう。そのため、桜島線の夢洲延伸は万博開催後の2030年頃になるのではないかという見方もある。


 一方で、万博誘致をどこの鉄道会社よりも喜んでいるのは京阪電車かもしれない。京阪は天満橋より中之島へと至る中之島線を2008年に開通させている。これは、これ以上の延伸が物理的に不可能な淀屋橋に代わる存在として建設されたもので当初より西九条や夢洲方面への延伸が計画されている。終点の中之島から直接夢洲へと延伸(約11km)する案と、九条まで延伸して大阪メトロ中央線と接続させる案が検討されているが、仮に直接夢洲へと延伸した場合、延伸にかかる整備費は約3500億円といわれている。夢洲への延伸(もしくは九条での中央線との接続)は、今現状、利用客の不振に悩んでいる中之島線の価値を一段も二段も押し上げるものになることは間違いない。しかし、こちらも万博誘致とIR誘致の両方が成されて動き出す話で、京阪ホールディングの加藤好文社長もその趣旨の発言をしている。加藤社長はゆくゆくは中央線との相互直通運転も目指すようだが、それには路線規格の面でいくつか越えなければならないハードルがある。しかし、もし、京阪が夢洲へと路線進出すれば、京都と直結することになり、多くの観光客(とりわけ外国人観光客)を京阪電車に乗せて京都へ呼び込むことも可能だ。


 以上の点を総合してみると、やはり万博に際して最も現実的にアクセス交通として役割を果たしそうなのは大阪メトロ中央線だ。万博誘致に続いてIR誘致にも成功すれば、JRや京阪も伸びてくることとなる。そうなると、夢洲の価値は大きく押し上げられることとなる。


 悲願の万博開催が、大阪行政の負の遺産と言われる夢洲を文字通り「ドリームアイランド(夢の島)」に変える大きなきっかけになるかもしれない。いや、きっとそうなるはずである。夢洲を始めとする大阪港湾エリアの発展は、言うまでもなく大阪全体の発展にも直結する。相次ぐ東京への企業移転で大阪にも地盤沈下が発生しているといわれているが、やはりそこは日本の第二の都市(人口では横浜に負けてはいるものの)である。万博開催で大阪はもっと飛躍できるはずである。


2018年11月24日 会長執筆

2018年11月25日 一部修正

2018年11月26日 一部修正

2019年1月29日 一部修正




 

 

近畿交通民俗学研究会

近畿交通民俗学研究会 日本遺構学会

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