地名探訪 「泉州空港」

 泉州空港という空港をご存知だろうか。


 必死に地図をめくって探してもそんな名前の空港は無い。いや、あるのはあるが、それは泉州空港ではない。それは関西空港だ。


 関西空港とは1994年に大阪府泉佐野市、泉南郡田尻町、泉南市にまたがる形で開港した国際空港である。それまで、関西の空の玄関口だった大阪国際空港(伊丹空港)が立地都合上、これ以上の規模拡張が困難で発着可能時間の制約も大きいことから、新しく大規模な空港を造ることとなり、「関西第二空港」として建設された。大阪湾上の人工島に開港されたため空港周辺に家屋が一切無い。そのため、夜間を通して完全24時間発着が可能となっている。大阪国際空港(伊丹空港)、神戸空港、関西空港で構成される「関西三空港」の中で唯一定期国際便が就航しており、西日本を日本を代表する空の玄関口となっている。正式名称は関西国際空港で、近畿地方ではそれを略して「関空」と呼ばれることが多い。


 さて、そんな関西空港をお手元の地図で確認してみて欲しい。なんと関西空港が存在する場所の住所は「泉佐野市泉州空港北」、「泉南郡田尻町泉州空港中」、「泉南市泉州空港南」となっている。これは一体どういうことか。


 このからくりを解説するには、関西空港が「関西国際空港」という名前になったいきさつを振り返る必要がある。関西空港はその構想、建設の段階では仮称として「関西新空港」もしくは「関西第二空港」と呼ばれていた。それが開港するにあたり、正式な空港名を決めることになった。結果的に後に採用された「関西国際空港」はもちろんのこと、他に「近畿中央国際空港」や「近畿成田空港」、「西成田空港」など様々な案が挙げられ、その中でも空港の地元である泉佐野市や貝塚市が推した案が「泉州空港」である。


 結果的に「関西国際空港」という名前に決まったわけであるが、その空港が存在する場所の地名として「泉州空港」が残されたのは、「泉州空港」を推していたものの実現には至らなかったことに対する地元泉州の自治体の無念さが表れているとも言えるだろう。


 実際に関西空港を訪れて、「泉州空港」の文字を探してみようとしてみても、それを見つけることは難しい。空港島には住居が無く、関西空港とその関連施設しかないため、住所を確認出来るものが非常に少ないのだ。唯一といってもいいのが、空港内に存在するポストで、そこに貼り付けられていた求人募集の知らせに、空港島に置かれている大阪国際郵便局の住所が書かれていた。

 「泉南市泉州空港南1番地」と書かれている。「泉州空港」案を推していた自治体はせめて空港が位置する地名だけにでもその名を残そうとこの名をつけたのだろうか。しかし、関西空港の地名に泉州空港の名がつけられていることは残念ながらあまり認知されていない。


 「泉州空港」を推していた自治体の無念さを感じるこの地名だが、関西空港の中に、「泉州空港」の名は地名という形でひっそりと残されている。泉州地方に住む「泉州」という名を愛する住民たちの心とともに。


【参考資料】

ISM Publishing Lab(2015)『なるほど日本 地名の由来 雑学大事典』ゴマブックス.


2017年12月16日 会長執筆

2019年1月29日 一部修正

近畿交通民俗学研究会

近畿交通民俗学研究会 日本遺構学会

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