阪神春日野道駅旧ホーム

 現在の阪神電車春日野道駅は2本の線路を向かい合わせで挟む形をした相対式ホームであるが、双方向の線路の間の支柱が立つ部分に1933年から2004年まで使われていた旧ホームが一部残されており、遺構となっている。旧ホームは2本の線路の間にホームが存在する島式ホームで、そのホーム幅の狭さから「日本一危ない駅」や「日本一怖い駅」としてメディアにも取り上げられた。


 春日野道駅はもともと併用軌道だった岩屋以西の阪神本線が1933年に地下化されると同時に廃止される予定だった。しかし、春日野道駅近辺の工場(川崎製鉄など)に勤める労働者や周辺住民から猛反発を受け、地下化直前に駅存続が決まった。そのため、既に完成していたトンネル区間に半ば無理やりに駅を建設することとなり、結果としてこのような狭小ホームが誕生した。これが他に類を見ないこの狭小ホームが出来たいきさつである。


 ちなみに、1986年に公布された鉄道事業法ではホーム幅を原則3m以上と規定しているが、春日野道駅旧ホームのホーム幅は約2.6mで、規定値以下である。もっとも、春日野道駅は鉄道事業法が公布される約50年前に建てられたものなので、その点は留意しておく必要がある。


 阪神電車は春日野道駅のホームの狭さを考慮し、通過電車は45kmの制限速度を設定、その上、この駅において上下線の電車がすれ違うことが無いように運行ダイヤが組まれた。


 以上のように、春日野道駅旧ホームは幅の狭い危険なホームであったが、阪神電車による安全対策、及び利用者自身の注意意識があったため、設置から廃止までの70年間、ホーム幅が原因とする事故は1件も起こらなかった。


 ちなみに、阪急電車にも同名の春日野道駅が存在しているが、こちらもホーム幅が狭い(阪神の旧ホームほどではない)。阪神の春日野道駅が改良された結果、2017年現在では阪急の春日野道駅のホームの方がホーム幅は狭い。

  上の写真が現在(2017年12月)の春日野道駅。向かい合わせの相対式ホームで挟まれた上下線の線路の間に細長い旧ホームが残っていることがわかる。


 使われなくなって13年が経ち、旧ホームの地面には埃がかぶってしまっている状態だが、点字ブロックなどは今でも残っており、この幅の狭い細長い構造物がホームとして使われていたことを物語っている。


 ちなみに、「春日野道」という地名の由来も説明しておく。この周辺は元々、籠池通辺りにあった春日明神から春日野と呼ばれていたのだが、1899年に小野浜から春日野に、居留地に住む外国人向けの墓地が移設されたのに伴い、1903年に西国街道から春日野の墓地へ至る道が通された。これを春日野道と呼ぶようになり、今の地名に至るというわけだ。


【参考資料】

神戸市中央区(2016)「葺合・地名ものがたり」 

http://www.city.kobe.lg.jp/ward/kuyakusho/chuou/shoukai/fukiai/

近畿交通民俗学研究会

近畿交通民俗学研究会 日本遺構学会

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