地名探訪「茄子作」

 大阪市内より京阪特急に乗り、京橋駅の次に止まるのが枚方市駅だ。


 「枚方」という地名は今や全国的に有名な難読地名のひとつで、関西在住(とりわけ京阪沿線)の人間以外にはなかなか初見で読むのは難しいとされる。この「枚方」という文言が初めて史書に登場するのは奈良時代で、『日本書紀』継体天皇二十四年条にて「枚方ゆ笛吹きのぼる近江のや毛野の稚子い笛吹きのぼる」という歌にその名が表されており、地名自体の歴史は深い。その由来として有力な説として多くの場で挙げられているのが、隣接する高槻市との境に流れる淀川に平たい潟があり、平潟(ヒラガタ)が枚方(ヒラカタ)に変化したというものだ。


 その枚方市内に「茄子作」という地名がある。


 世の中でこれほど由来がわかりやすい地名があるだろうかという地名で、その由来はそこが古くからの茄子の産地であったことだと言われている。


 茄子作とはどういった場所かというと、鉄道駅で表すならば、京阪交野線の郡津駅の南に位置し、地理的にいうとちょうど枚方丘陵の南端となる場所である。近年は附近に第二京阪道路が開通し、そこに付随する国道1号線バイパスも建設され、ここ数十年で大きく景色の変わった場所だ。市でいうならば間違いなく枚方市なのではあるが、交野市の方が地理的に言えば近いといえる。


 1939年(昭和14年)にはこの周辺に宇治火薬製作所香里工場(香里工廠)があり、これが現役で稼働していた頃は、茄子作の西南淵をかたどるようにして工廠へと向かう線路が片町線(学研都市線)から分岐して通っていた。


 茄子作を貫くようにして通るのが主要地方道大阪府道18号枚方交野寝屋川線で通称「水道道」である。なぜそのような通称を持つのかというと、この大阪府道18号線の地下に大阪市水道局と大阪広域水道企業団の送水管が通っており、沿道に大阪広域水道企業団の村野浄水場があるからだ。また、大阪府道18号線茄子作東交差点と、その2つ隣(枚方方面へ向けて)にある新天野川橋交差点は新宮と枚方を結ぶ国道168号線との交点で、夜間を除いて常に交通量が多く、渋滞が多く発生している。



 第二京阪道路や大阪府道18号線、国道168号線が通り、枚方交野周辺地域における交通の要衝ともいえる茄子作であるが、大阪府道18号線と第二京阪道路の狭間である茄子作5丁目などでは今現在においても田畑が多くあり、かつてこの地が茄子の産地であったことを思い起こさせるような景色がある。茄子作やそこに隣接している交野市星田一帯は北河内地域における近郊農業地帯となっている。


【参考資料】

堀田暁生(2010)『大阪の地名由来辞典』東京堂出版

創元社編集部(2003)『大阪難読地名がわかる本』創元社

生田誠(2015)『京阪電車 街と駅の1世紀』彩流社


2019年1月30日 一部修正




近畿交通民俗学研究会

近畿交通民俗学研究会 日本遺構学会

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