自転車通行帯は誰のもの?

 世の中には「私は普段車しか乗らない」「電車移動がほとんどだ」という人がいる。確かに東京都内や大阪市内といった都心部であれば、自動車よりも電車やバスの方が利便性が高く、それだけで日常生活の移動が事足りるだろう。逆に、山間部や海岸部の公共交通機関が発達していない地域では、数十分(数時間)に一本の一両編成のディーゼル列車を待つよりも、自家用車で移動するという人の方が多いだろう。そうであるが故に、国鉄時代に全国に整備された地方交通線は軒並み赤字が続き、路線維持の危機に瀕しているが、それについてはまた別で取り上げることにする。


 私はというと、割と満遍なく利用する方だ。今現在(2019年5月現在)住んでいる街(大阪郊外の京阪沿線)が都会でもなく、田舎でもないということもあるので、梅田や難波、京都といった都心部に行くときは京阪電車を、それ以外の近中距離移動は自動車を利用する。また、住んでいる街の市内を移動する際(「超近距離移動」)は自転車も利用する(原付バイクを持っていたら、自転車ではなくバイク利用していたかもしれないが)。


 さて、そんな満遍なく交通手段を利用する私が最近ふと感じているのが、自転車の立ち位置があまりにも微妙であるということ。「立ち位置が無い」と表現した方が適切かもしれない。


 本来、自転車は法律に則れば車道を走行するもの。自動車と同じ車両という扱いであるからだ。しかし、実際はどうだろうか。恐らく、歩道を走っている人の方が多いかと思われる。確かに、一部では自転車が歩道を走ることを認められている道路もある。しかしながら、原則として自転車は車道を走るべきものとされている。



 では、なぜ、多くの人は歩道を自転車で走るのか。答えは至極簡単で、車道を走ると危ないから。自転車は一般の人が普通に走ると時速10kmから20kmの間といったところだろう。高齢者が乗る場合はさらに低速となり、同時にふらつきが発生する。一方で自動車は時速30kmから50kmほど。中には不届き者が速度超過でそれよりも速い速度で走っていることもある。こうした状況で、自転車と自動車が車道を共有したらどうなるだろうか。もちろん、車道が広く、自転車が走行する部分と自動車が走行する部分がそれぞれ十分なスペースを確保できていれば問題はない。しかし、ここ数年の間に整備された新し道路を除き、多くの道路ではそのようなスペースは確保されていない。自転車が車道を走っていれば、後ろから来た自動車は中央線をはみ出して(対向車線にはみ出して)自転車を抜く、そういった道がほとんどなのだ。


 そうした状況なので、多くの人は自転車を乗る際に歩道を走ることになる。また、街のお巡りさんもそれを半ば黙認している形だ。私も歩道を自転車で走るが、注意された経験はない。が、しかし、ここ最近、自転車は車道を走るべきであるという声が大きくなりつつあるのも事実。



 自転車は車道を走るべきであるという風潮が社会的に強くなると同時に、行政も車道に自転車走行帯を意味するペイントを道路に施すなど、自転車が車道を走ることを推進する動きを取っている。実際に、東京都内や大阪府内では、ここ数年間で国道、都道、府道を中心に多くの道で自転車通行帯が整備されてきた。


 この動きは交通安全の面で大いに素晴らしいことであると言える。しかし、整備された通行帯は自転車にとって本当に有効な存在となったのだろうか。自転車通行帯をペイント等で車道に整備した結果、そこに何が走ったか。残念ながら、自転車ではなかった。原付バイクやオートバイが走るようになったのだ。


 自動車は無論、車道の真ん中を走る。ペイントされた自転車通行帯には空間的に空いていることになる。例えば、信号等で車道が渋滞(渋滞といえないレベルの混雑も含む)したとき、自転車通行帯はバイクにとっての「格好のすり抜け空間」となる。もちろん、すり抜け行為は違反。しかしながら、多くのバイク利用者はすり抜け行為を行っているのが現実。それに起因した事故(転倒や自動車との接触)も発生しているが、依然としてすり抜け行為を悪びれもなく行うライダーは多い。


 自転車通行帯を自転車で走っていると、後ろからバイクが速い速度で迫ってくる、そのような状況で、自転車は安全に通行できるだろうか。やはり、自転車は歩道へ退かざるを得ない。結果として、行政を始めとした関係機関は努力はしたものの、思った通りの結果には結びついていないのが現状なのだ(誤解して欲しくはないのだが、決して「行政が悪い!」「行政は無能だ!」と言っているわけではない)。


 日本は自動車中心の道路交通整備が推し進められてきた。故に、自転車は道路交通上の立ち位置として非常に微妙な存在と言わざるを得ない状況が続いている。しかしながら、環境問題等の社会的風潮で自転車交通の価値を見直す動きが世界的に強まっているのも事実だ。皆さんも、普段通る道をそうした目線で眺めてみてはどうだろうか。今まで気にもしなかった様々な道路交通の問題がそこには存在しているのではないだろうか。


【参考資料】

『道路のわきの「自転車専用」の意味とは バイクで走った場合どうなる?』-くるまのニュース

https://kuruma-news.jp/post/119454/2


『自転車専用道路について』-大阪市

https://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000446556.html


2019年6月8日 文章修正


 


 

近畿交通民俗学研究会

近畿交通民俗学研究会 日本遺構学会

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